満開の桜で思うこと~大きな花を咲かせるためには、大きな根っこが必要~
世の中に 絶えて桜の なかりせば
春の心は のどけからまし
『桜の木が無かったら、桜はいつ咲くだろうか、雨風で散ってしまわないだろうかなどと、心配することがないので、春に私たちの心が乱れることがないのに。』という意味で、桜の木が深く愛されていることを逆説的に歌っています。
この歌を詠んだ在原業平(ありわらのなりひら)は平安時代の人で、六歌仙の一人に数えられる和歌の名手です。またこの歌は桜を題材にしたものとしては、古今を通じて最も有名なものと言えるかも知れません。
太古の人々にとっての寒い冬の厳しさは、現代人の私達には想像もできないほどのものであったはずです。
だからこそ人々は春を心から待ち望んだことでしょう。そして桜は春を告げるように咲き誇り、しばし人々の目を楽しませた後、あっという間に散ってしまう。
そういった『喜び』、そしてそれとは相反する『はかなさ』があるからこそ、日本人は桜の木をここまで深く愛し続けているのだと思います。
そして当社の敷地内の桜も、4月に入ってからの冷え込みで若干足踏みしましたが、ようやく満開を迎えました。
青空に泳ぐ鯉のぼりと満開の桜、なかなか心躍る風景です。
ここで話は今から13年前にさかのぼります。
平成18年(2006年)1月28日(土)、私たちは思いもよらない出来事に見舞われました。
この日の朝、当社の製綿工場の2階から火が出て、それが綿に燃え移り、あっという間に鉄筋2階建ての建物が全焼してしまったのです。原因は漏電だと思われます。
この時の火事のいきさつは、当時のニュースレター『せいぶ通信(平成18年2月発行)』に書きました。
当社は明治35年創業、西部製綿株式会社の設立が昭和23年です。ご先祖様から受け継いできた工場をこういった形で台無しにしてしまったことは、非常に大きなショックであり、またご先祖様に申し訳ないことでした。
そこで製綿工場を建て直すことに決めました。焼けてしまった鉄筋2階の建物はもちろん、残った古い木造の建物も全て取り壊し、規模を縮小して、新しく鉄筋2階建ての製綿工場を再建することにしたのです。
とはいえ、前向きな新築・改築ではないので、設計の段階でなかなか心が弾みませんでした。
そんな折、母が知り合いの人に誘われて花見に行きました。その人の家には桜の木が植えられていて、毎年自宅で花見をしているのだとか。その花見から帰ってきた母が『ウチも敷地内に桜の木を植えよう』と言い出したのです。この話は即採用の運びとなりました。
その年の秋、樹齢10年くらいの桜の木を、敷地内に4本移植しました。
そして翌年の春、花が咲きました。
ひょろひょろっと細長い桜の木、花も咲き誇っているとはいい難い状態ではありましたが、それでも私たちの目を楽しませてくれました。
ところが翌年、2回目の開花を迎えても、桜の木は高さも、幹の太さも、枝ぶりも、植えた当初からほとんど成長していないように見えました。『桜の木は成長が速い』と聞いていた私は心配になり、この桜を植えてくれた造園さんに聞いてみたのです。
そうしたところ次のような答えが返ってきました。
『心配せんでもえぇ。この桜の木はちゃ~んと成長しよるで。目に見える部分はほとんど変わってないけど、この1年間はなぁ、土の下で一所懸命根っこを伸ばしたんじゃ。見よってみぃ、これから枝を伸ばして、年ごとに見事な花を咲かせるようになるから。』
聞くところによると、植物というのは、土から上に出ている部分に対して、土の中に隠れている部分がそれ以上に大きくなければならないのだとか。つまり大きな木を育てるためには、まずその前に大きな根っこが必要ということ。
私はこの話を聞いて安心すると共に、自然の摂理に大いに感動したことを覚えています。
この話から少し後に、シドニーオリンピック、女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんが現役を引退しました。彼女の座右の銘として有名となったのが次の言葉です。
何も咲かない寒い日は
下へ下へと根を伸ばせ
やがて大きな花が咲く
私たちの仕事はもちろん人生全般においても当てはまる至言ですね。目先の結果だけにとらわれるのではなく、多少遠回りしてでも、そのベースとなるものを積み上げていくことが大切。
果たして日々どれだけの根っこを伸ばせているのか?常に自問自答する必要がありそうです。
さてウチの桜の木もずいぶんと根っこを伸ばしたようです。枝ぶり、咲きっぷりが、年ごとにぐっと良くなってきました。
桜の木のもとで元気に遊ぶ息子たち。
将来息子たちと花見をしながら、一緒にお酒を飲める日が待ち遠しいです。
その日を笑顔で迎えられるように、桜のように少しずつ根っこを伸ばしてゆきたいと思っている今日この頃です。
この記事は自称『日本一文章を書くのが好きなふとん屋』が書きました
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